平良タイジュ

造形作家

平良タイジュ

1980年東京生まれ。幼少期を森の中で遊んで過ごす。
1999年より成安造形大学にて立体造形を専攻、現代美術に夢中になる。

その後、知恩寺の手作り市に参加したことをきっかけに、日々の生活、暮らしにとけ込む物づくりをコンセプトに活動開始。

2009年、京都にて工房とショップ、ウケンムケン設立。

平良タイジュ

一目見れば忘れられないような個性的な造形と、そこに添えられた美しい詩のような言葉。京都にお店を構えるウケンムケンは、その独自の世界観で人気を集めるアクセサリーショップです。
その代表としてすべての作品の制作を手掛けるのが、造形作家の平良タイジュさん。お話を伺うなかで見えてきたのは、「芸術」と「ものづくり」を横断して世界との関わり方を見つけた、タイジュさん自身の物語でした。

制作の様子

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制作の様子

制作の様子

「星図のネックレスができるまで」

今回アクセサリーショップ・ウケンムケンの平良タイジュさんとのコラボレーションで製作した「遠い国の言葉で綴られた、大きな星のささやかな輝きについて」シリーズ。その中から、使い慣れた小道具のような温かみが特徴の「星図のネックレス」について、制作の様子を解説していただきました。

金板をなます行程

左から右へと形成されていきます。まずは金板をなます行程。

金板を炙って柔らかくする

約1200℃の高温で四角い金板を炙って(なまして)、柔らかくしていきます。

金板を炙って柔らかくする

みるみる真っ赤に。これぐらいになると、ピンセットで金板を押せば簡単にぐにゃりと曲がります。

ハンマリング

スケッチから起こした型に合わせてハンマリング。

しっかりと叩く

ある程度の模様が付いたら再びなまして、さらにしっかりと叩きます。
型がズレると模様が二重になってしまうので、慎重に。

糸鋸で円く切り出す

糸鋸で円く切り出します。一発勝負の、集中力の要る作業です。

ゆるやかにアール(角度)を付ける

写真の半球状にくぼんだ部分に切り出した金板(円形)を押し当ててハンマーで叩き、ゆるやかにアール(角度)を付けます。

コーティングを施して完成

全体を黒く燻した後、凹ませて模様を付けた部分にだけ黒色が残るように磨いてツヤを出し、コーティングを施して完成。

ウケンムケンの作品世界

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ウケンムケンの作品世界

ウケンムケンの作品世界

新緑が瞳に眩しい、四月ののどかな陽気に満ちた夷川通り。京都市内の中心部にある京都御所を北に拝み、烏丸通りと寺町通りに東西を挟まれたこのエリアは家具屋が軒を連ねる商店街として名高く、現在も古くからの家具商や建具商が立ち並んでいます。

ウケンムケン外観

そんな夷川通りの一角に佇む一軒のアクセサリーショップ。真っ白な壁に記されたそのお店の名前は「ウケンムケン」。

ウケンムケン店内

ついつい口ずさみたくなってしまうような不思議な響きに誘われて扉を開けば、店名と同じく個性的なアイテムやオブジェの数々が並びます。ハート型になって寄り添うおばけのブローチ、野花をモチーフにしたイヤリング、バケツを持った小さなロボット……店主である造形作家・平良タイジュさんのハンドメイドによる作品は皆どこか寓話的で、時間を忘れていつまでも眺めていられるほどユニーク。その独特の世界観を象徴する「ウケンムケン」という謎めいた言葉には、タイジュさんの哲学が表現されていました。

名前の由来

「広辞苑をめくっていた時に見つけた言葉なんですけど、『すべては存在する』という意味の『有見(ウケン)』と『すべては存在しない』という意味の『無見(ムケン)』が組み合わさった仏教用語なんです。これは僕なりの解釈ですけど、物事の持つ意味は箱のように多面的だから、どこから見るかによってその見え方(=価値)は変わるもの。だから、価値観というのは自分で決めればいいんだよってことなのかな、と」

自分が作ったものについても、良いと思う人がいればそう思わない人もいるだろうけど、それはそれでひとつの答えだ、と語るタイジュさん。ウケンムケンの作品がまとっている「寓話」にも、決して饒舌に語りかけてくるのではなく、静かに独り言ちているような印象を受けます。

アクセサリーの棚

ウケンムケンのアイテムをよく見てみると、動物や植物、鉱物、天体など、自然をモチーフにしたものが多い印象。
「デザイン畑の人だとゼロから新しいかたちを生み出してっていうやり方だと思うんですけど。やっぱり僕自身が実際に目にしたものや、ちょっと誰かに教えたくなるような小さな発見を温めてかたちにしたいんですよね」

タイジュさんの興味は幅広く、夜空に瞬く星座から道端に落ちている虫や動物の死骸まで……あらゆるものに美しさを見出し、イメージを膨らませていきます。そのものづくりの軸にはやはり、「発見」と「観察」があるようです。つくるものに迷った時には立ち止まってインプットを増やす。そして、心が震えたものをスケッチに書き起こす。その繰り返しでイメージはかたちになり、またそのかたちから連想されるイメージが物語を宿していきます。

遠い国の言葉で綴られた、大きな星のささやかな輝きについて

そんなウケンムケンの作品の寓話性をより深めているのが、そのひとつひとつに添えられた言葉たち。今回PLAYCOURTとのコラボレーションで完成した「遠い国の言葉で綴られた、大きな星のささやかな輝きについて」シリーズも、タイジュさんに名付けていただいたものです。

「星新一やアイザック・アシモフといったSF作家とか、R・D・レインという精神科医の詩が好きで。製作の中で単純作業の部分もあって、その時にいろいろ考えるんですけど。浮かんできた言葉とかメモしたものを後で見返して、いいなと思えるものを作品のタイトルや紹介文に使ったりしています」

「ものづくり」にできること

仕事にすることの難しさ

もともと芸術・美術に関心を持って大学で現代美術を研究していたタイジュさんですが、それを仕事にすることの難しさに直面しました。

「滋賀の小さな大学で立体造形を学んでいました。金属を溶接してドデカい鉄のオブジェを作ってみたり、頭の中のイメージを現実に存在するかたちに起こしていくのが面白くて。でもやっぱりそれを仕事にするのって現実的にどうなのかな……と。そういうモヤモヤを溜め込みながら、友だちと一緒に知恩寺の手づくり市に変なもの(虫の死骸をガラスケースに収めたようなもの!)をつくって持っていったりしていました(笑)」

制作において芸術志向が高かったタイジュさん。「美術のための美術」となる作品づくりを目指していましたが、手づくり市への出店で考え方が大きく変わったと言います。

手づくり市での経験

「人の暮らしの中に入り込んでいくような、ちょっとでも関わることができるようなものづくりっていうのが、自分にとってしっくりくるんだなと気づきましたね。そのきっかけとしては(知恩寺の手づくり市で)実際に作品を買っている人を目の当たりにしたのが大きかった。ギャラリーとかで美術の展示をしていても、あまり『作品を買う』という発想にはなりづらいじゃないですか。ものづくりと暮らしが密接に関わっている現場を目の当たりにした時の衝撃は、今でも憶えています」

手づくりの作品が自分の目の前で買われ、それが買った人の生活の一部となる。その光景は、「『ものづくり』でもっと深く人々の暮らしに関わることができる」という発見をタイジュさんにもたらしました。

「自分がつくりたいものをつくりながら自分以外の世界と関わっていくには、自分がつくったものを気に入ってもらえないといけないんですよね。今までは虫の死骸とかいいじゃん!みたいなテンションでつくってたけど(笑)、『自分がつくりたいもの』の中でもこれは喜んでもらえるかどうかってことを意識するようになりました」

タイジュさんが制作の中で思い浮かんだ言葉を書き留めたメモの中に、こんな1枚がありました。

結局のところ、世界を変える力はないが、あなたの心をほんの少し照らすくらいの力はある。

——結局のところ、世界を変える力はないが、あなたの心をほんの少し照らすくらいの力はある。——

「僕にとって作るということの動機になるのは、見つけた何かを誰かに伝えたいとか、自分自身が忘れないようにとか、シンプルなものです。芸術には世界を変える力があると思うんですよ。自分はもともと芸術方面にいきたかったけど、ダメで。でも、結果として自分が歩んでいる『ものづくり』という道も、自分の作品を手に取ってくれた人の気持ちをちょっと明るくさせるくらいのことはできるんじゃないかなと思って」

「ものづくり」が世の中に与えられる影響というのは、芸術活動に比べると微々たるものかも知れない。それでも、目の前のお客さんが自分の作品を手に取ってそれを気に入ってくれた時、自分とそのお客さんの「物語」が重なるのを感じる、とタイジュさんは言います。

「最終形態は違うけれど、それは美術作品を制作していたころの衝動と同じだと思うのです。ウケンムケンを始めてから、ずっと考えてきたものが無理なく繋がった感じがしています」

この記事を読んだあなたがもし、夷川通りで不思議な響きの小さなお店を見つけたら、迷わずお店に入ってみてください。そこに並ぶ作品の数々は、あなたの心に小さな灯りをともしてくれることでしょう。